はじめに
制御盤を開けると必ず設置されている、あのゴツゴツした黒い塊。 「マグネットスイッチ(電磁接触器)」と「サーマルリレー(熱動継電器)」です。
現場では「マグネット」「サーマル」と別々に呼ばれますが、この2つの役割や仕組みを正しく理解していないと、ポンプやモーターのトラブル対応で迷宮入りすることになります。
この記事では、保全エンジニアとして必須の知識である「この2つの役割の違い」「正しい設定値の決め方」「よくある故障」について解説します。
1. そもそも「2つで1つ」の役割
多くの場合、この2つは上下に合体した状態で盤内に設置されています。 これをまとめて「電磁開閉器(電磁スイッチ)」と呼びます。
人間の体に例えると、役割の違いが一発で分かります。
- 上:マグネットスイッチ(電磁接触器)
- 役割:【筋肉】
- 電気信号を受けて、「ガチャン!」と力強く接点をつなぎ、モーターへ電気を送る動力源。
- 下:サーマルリレー(熱動継電器)
- 役割:【痛覚(神経)】
- 流れる電流を常に見張り、「熱い!無理!」(過負荷)と感じたら、上のマグネットに「止まれ」と指令を出す安全装置。

2. サーマルリレーの仕組みと「設定値の罠」
まずは、下についている「サーマルリレー」から解説します。
仕組み:バイメタルが熱で曲がる
中には「バイメタル」という、熱で曲がる特殊な金属板が入っています。 モーターに電流が流れると、その熱でバイメタルが徐々に反っていき、限界を超えて曲がると「カチッ」とトリップ(遮断)ボタンを押します。

要注意!「合計値ではない」
初心者がよく陥る勘違いに、「3相の電流を合計して、設定値を超えたら落ちる」というものがあります。これは間違いです。
サーマルリレーは「各相独立監視」です。 R相、S相、T相の3本それぞれにバイメタルが入っています。
- × 間違い: 3本の合計 > 設定値 でトリップ
- ○ 正解: どれか1本でも > 設定値 でトリップ
「合計電流は低いのに落ちる」という場合は、どこか1相だけに過電流が流れている可能性があります。必ずクランプメーターで1線ずつ測定しましょう。
正しい設定値(ダイヤル)の決め方
設定ダイヤルをいくつに合わせるのが正解か? 基本は、モーター側面に貼ってある銘板(ネームプレート)を見ます。
- 「定格電流値(CURRENT)」を確認する。
- その数字と同じ値にダイヤルを合わせる。
【銘板が見えない場合の目安(三相200V)】
- 0.4kW → 2.0 〜 2.2A
- 0.75kW → 3.5 〜 3.8A
- 1.5kW → 6.0 〜 6.8A
- 2.2kW → 9.0A 前後
- 3.7kW → 15.0A 前後
3. マグネットスイッチの仕組みと「接点の罠」
次は、上についている「マグネットスイッチ」です。
仕組み:電気で磁石を作る
中にはぐるぐる巻きの銅線(コイル)が入っています。 操作用電源(100Vや24Vなど)をコイルに流すと、そこが電磁石になります。その磁力で鉄片を引き寄せ、「ガチャン!」と接点が閉じて、動力(200V)がモーターへ流れます。

トラブルの定番:「音に騙されるな」
マグネットスイッチ最大のトラブルは、「接点の溶着・摩耗」です。 何万回も「バチッ」と火花を散らして開閉しているため、接点が焦げて炭化したり、凸凹になったりします。
すると、「ガチャンと音はしたのに、電気が流れていない」という現象が起きます。 特に怖いのが、3本のうち1本だけ電気が流れない「欠相(けっそう)」です。
- マグネットが入る(音は正常)。
- しかし、S相だけ接点が焦げて電気が通らない。
- モーターはR相とT相の2本だけで無理やり回ろうとする。
- 残った2本に激しい過電流が流れる。
- 結果:サーマルリレーがトリップする。
「サーマルが落ちる=ポンプが悪い」と決めつける前に、「マグネットの接点が死んでいないか?」を疑うのが、デキる保全マンの視点です。
マグネット不良の見抜き方
「音がしたからヨシ」ではなく、本当に電気が流れているかをテスター(電圧モード)で確認しましょう。
【手順】マグネットの二次側(下側)の電圧を測る マグネットONの状態で、相間の電圧を測ります。
- R-S間 = 200V OK
- S-T間 = 0V !?
- T-R間 = 200V OK
もしこのように電圧が来ていない相があれば、マグネットの接点寿命です。サーマルを変えても直りません。マグネットスイッチごと交換しましょう。
まとめ
- サーマルリレーは、バイメタルで熱を感知する「痛覚」。合計値ではなく1線ごとの電流で監視している。
- マグネットスイッチは、コイルで動く「筋肉」。音がしても信用せず、接点不良(欠相)を疑う。
この2つの仕組みを理解していれば、「なぜ落ちたのか?」の切り分けがスムーズになります。 盤の中の黒い箱たちは、ただのスイッチではなく、それぞれ重要な役割を持って設備を守っているのです。
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この記事では仕組みを解説しましたが、実は私自身、新人の頃にこれを理解しておらず、現場で「爆発寸前」のミスをしたことがあります。 「知識がないと現場でどうなるか?」を反面教師として学びたい方は、こちらの実録エピソードもご覧ください。


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