お疲れ様です、Naoです。
機械保全の仕事で一番「血の気が引く瞬間」といえば、固着したボルトに六角レンチをかけて、渾身の力で回した瞬間に「ヌルッ…」と、ネジ穴を潰してしまった時です。
今回は、現場で実践している「なめたネジの救出手順」を、軽度ななめから破壊的な最終手段まで、段階を追って解説します。
1. 最初に確認!絶対にやってはいけないこと
ネジ穴が「ヌルッ」となった瞬間、焦って同じ工具でさらに強く回そうとするのは絶対NGです。 傷口を広げ、ネジ穴を完全に「真円」にしてしまい、リカバリー難易度が跳ね上がります。
一回滑ったら、即座に作業を中断し、次の手段を考えましょう。
2. 【初級編】滑り止め液を試す
まだネジ穴が完全に丸くなっていない、初期の「なめ」であれば、以下の方法をまず試してみる価値があります。
滑り止め液を塗布してみる
ネジと工具の間に摩擦を発生させる「ネジ滑り止め液(ネジすべり止め剤)」を塗布してから回します。これは舐めが広がるのを防ぐ最初のステップです。軽度ななめであれば、これで十分な場合もあります。
3. 【中級編】「掴む」か「食い込ませる」か
滑り止め液でもダメな場合、ネジの頭の状態で使う工具を判断します。
① 頭が出ているネジを掴み出す(ネジザウルス)
ナベ頭やトラスネジのように、頭が飛び出しているネジであれば、ネジザウルスが有効です。
- ネジザウルス: 溝が「縦」に入っており、錆びたネジや潰れたネジの頭をガブッと掴んで回します。
- 注意点: スタンダードサイズ(大きなネジ用)だと、小さなネジの頭は先端が届かず掴めません。小さいネジにも対応できるよう、コンパクトサイズも工具箱に揃えておくと便利です。
② 頭が出ていないネジに食い込ませる(ANEXビット)
六角穴付ボルトなど、頭が埋まっているネジや掴めないネジには、穴に食い込ませて回すビットタイプを使います。
このタイプにはANEX(兼古製作所)の「なめたネジ回し用ビット」や、エンジニアの「ネジモグラ」などがありますが、ANEXのビットは独自の構造で穴への食い込み方、トルクの伝わり方が非常に優秀です。私はANEXのビットを強く推しています。
4. 【上級編】完全に丸くなった穴を救う
ANEXビットなどでも歯が立たない場合の正式な方法です。
逆タップ(エキストラクター)を使用する
ドリルでネジの中心に穴を開け、「逆タップ(エキストラクター)」という専用工具をねじ込みます。逆タップは回せば回すほどネジ穴に食い込み、ボルトを緩める方向に回転させて外すことができます。
5. 【最終手段】固着がひどい時の破壊的リカバリー
錆や熱でガチガチに固着し、何をしても緩まないネジには、もはや破壊力で挑むしかありません。
① 熱を加える(ガスバーナー)
ネジロック剤や錆びによる固着は、熱を加えることで緩みます。ガスバーナーでボルトの周りの母材(受け側)を軽く炙り、熱膨張させて隙間を作る手法です。ただし、周辺への引火に注意が必要です。
② タガネ(チゼル)で側面に衝撃を与える
サンダーなどが入らない狭い場所でよく使う古典的な裏技です。ボルトの頭の縁にタガネを当て、緩める方向(反時計回り)に斜めにハンマーで叩き込み、衝撃と回転力を与えて外します。
③ 頭を物理的に破壊する(サンダー・ドリル)
逆タップも効かない最終段階です。
- サンダー・ドリルで頭を飛ばす: 治具さえ外せれば、残った軸はプライヤーなどで回せます。サンダーで頭を削り飛ばすか、ドリルでネジの中心を削り込み、ネジの頭を破壊してしまう手法です。
6. 【プロの予防策】次回のためにできること
保全は「外す」ことよりも「トラブルを予防する」ことが重要です。
焼き付き防止剤(アンチシーズ)を塗布する
ネジが固着する最大の原因は熱や錆びによる「焼き付き」です。高温箇所や高湿度の場所のネジを締め直す際は、少量の焼き付き防止剤(アンチシーズ)を塗布しておくと、次回の分解作業が格段に楽になります。
まとめ
- ネジがなめたら、同じ工具で悪あがきせず、すぐ中断する。
- 軽度ななめは滑り止め液を試す。
- 頭が出たネジはネジザウルス(サイズ違いに注意)で掴む。
- 頭が埋まったネジはANEXビットで食い込ませるのが最速。
- 最終手段は逆タップ、熱、タガネ、サンダーでの破壊。
- 次回のために焼き付き防止剤を忘れずに。
「ネジが外れない」というだけで、作業時間が大幅に伸びることがあります。 リカバリーの引き出し(道具と知識)は、多ければ多いほど良いですよ!
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