お疲れ様です、Naoです。
前回の記事では、センサーが反応しない時の故障診断について解説しました。 そこで「PLCの入力ユニット自体が壊れている(入力信号が入らない、または入りっぱなし)」という最悪の結論に至った場合、あなたならどうしますか?
「ユニット交換しかないですね。部品が入荷するまで機械は停止です」 なんて言ったら、製造現場から大ブーイングです。
保全マンなら、その場で直しましょう。 PLCには大抵、使われていない「空き端子」があります。 壊れた端子の配線を、生きている空き端子に移し替え、プログラム(ラダー)を書き換える。
これを「アドレス振替(I/O振替)」と呼びます。 今回は、三菱電機の標準ソフト「GX Works2 / 3」を使って、安全かつ一瞬でアドレスを書き換えるプロの技を伝授します。
1. 復旧の全体像
作業は以下の3ステップです。
- 物理配線: 壊れた端子(例:X0)から線を外し、空き端子(例:X5)に繋ぎ変える。
- ソフト変更: ラダープログラム内の「X0」をすべて「X5」に書き換える。
- 転送: 修正したプログラムをPLCに書き込む。
これで、機械は「X0」の代わりに「X5」を使って元通り動くようになります。
2. 【準備】まずはバックアップ!
作業前に、必ず現在のPLCからプログラムを「読出(Read)」して保存してください。 操作をミスした時に元に戻せるよう、バックアップは保全マンの命綱です。
3. GX Worksでの「一括置換」テクニック
ここからが本題です。 ラダー図を目で見て「あ、ここにもX0があった」と手作業で直していくのはNGです。見落としや打ち間違いの原因になります。
GX Worksの「検索・置換」機能を使えば、プログラム全体を一瞬で修正できます。
手順①:「置換」メニューを開く
メニューバーの [検索/置換] から [デバイス一括置換] をクリックします。 (ショートカットキー:Ctrl + Alt + R ※設定による)
手順②:デバイスを指定する
設定ウィンドウが開くので、以下のように入力します。
- 置換前デバイス:
X0(壊れた端子) - 置換後デバイス:
X5(新しく繋いだ空き端子) - 検索範囲: 「プロジェクト全体」または「現在のプログラム」
手順③:実行!
「実行」ボタンを押すと、GX Worksがプログラム内の全ての「X0」を探し出し、自動的に「X5」に書き換えてくれます。
【⚠重要テクニック:死んだ接点に「墓標」を残す】 置換が終わると、元のX0はプログラム上から消えて「未使用」になります。 しかし、ここで絶対にやってほしいことがあります。
デバイスコメント編集画面を開き、空いたX0のコメント欄に 「※故障中 使用不可」 「HW不良 2025/12/17」 と入力しておいてください。
これをやらないと、数年後に別の担当者が「お、X0が空いてるじゃん!」と使ってしまい、「配線したのに動かない!」という悲劇が繰り返されます。 後任者のために、必ず「ここは死んでますよ」という看板を立てておきましょう。
4. 入力だけじゃない!「出力リレー(Y)」の溶着にも使える
このテクニックは、センサー入力(X)だけでなく、バルブなどを動かす出力(Y)の故障にも使えます。
なぜ出力が壊れる?「直駆動」の罠
最近の設備では、PLCと機器の間に「ターミナルリレー」などを挟んで保護するのが主流ですが、古い設備ではそうはいきません。
AC200Vの電磁弁などを、PLCのリレー出力ユニットで「直接」ON/OFFさせている回路がよくあります。 こういった箇所は、長年のアーク放電で内部接点が焼き付き、「OFF指令を出しても電気が切れなくなる(溶着)」という故障が非常に多いです。
- 症状: シリンダーが勝手に出っ放しになる、コンベアが止まらない。
- 対処: ユニット交換までの応急処置として、壊れた
Y20を空いているY25などに振り替えれば、すぐに復旧できます。
5. 最後の仕上げ「図面への記入」を忘れるな!
プログラムを直して機械が動いた。 「よし、直った!」と安心して帰ってはいけません。
現場にある「電気図面(ハード図)」を取り出し、赤ペンで修正を書き込んでください。
- X0の箇所にバツ印をつけて「接点不良」と書く。
- X5(空き)の箇所に線を引っ張り、「←ここに振替(日付)」と書く。
これをサボると、次に修理に来た人が「図面と配線が違うじゃないか!」と大混乱します。 「ソフト(ラダー)」と「ハード(図面)」の整合性を取るところまでが、プロの修理対応です。
まとめ
PLCの端子が一つ死んだくらいで、ユニット交換を待つ必要はありません。
- 空き端子を見つける。
- GX Worksで一括置換する。
- 死んだアドレスに「故障」コメントを入れる。
- 電気図面に赤ペンで修正を書く。
ここまでやって完璧な仕事です。 「配線」と「ソフト」の両方を扱えるようになれば、あなたは現場にとって欠かせない存在になれますよ!


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